海外居住日本人の相続税
グローバル化の流れの中で海外に住む日本人も増えています。富裕層の中には益々強化される相続税などを逃れ、被相続人(贈与者)と相続人(受贈者)が共に海外に移住し資産を国外に移すことで日本の相続税(贈与税)を回避する事例もこれまであったようです。平成29年度の税制改正でこれらの動きに厳しい制限がかけられたようです。その改正の内容を概観し、海外に住まれる相続人が納税手続きをするための納税管理人の制度について見てみましょう。
目次
【1】無制限納税義務者と制限納税義務者について
【2】平成29年税制改正での海外に住む日本人が制限納税義務者となる条件の見直し
【3】日本人が日本の相続税を回避できるのか
【1】無制限納税義務者と制限納税義務者について
無制限納税義務とは相続人で国内財産及び国外財産共に課税されるものをいいます。一方制限納税義務者とは相続人で国内財産だけに課税されるものをいいます。
【2】海外に住む日本人が制限納税義務者となる条件
これまでは、日本人の相続人は相続前5年以内に国内に住所がなく、かつ被相続人も相続前5年以内に国内に住所がない場合に制限納税義務者となり、日本から国外に移した財産については課税対象外となっていました。
従来富裕層の租税回避策として親子でシンガポールなどの海外に5年以上移住することで制限納税義務者となり海外資産について日本の贈与税(相続税)を回避することができていました。ところが平成29年度の改正によって制限納税義務者になるには被相続人と相続人の国内に住所がない期間が相続前5年以上から相続前10年以上となりました。これによってこの租税回避策のハードルがより高くなったといえます。
また、この場合従来は被相続人が国内に住む場合には相続人は制限納税義務者にはなり得なかったのですが、改正によって被相続人が相続時に在留資格を持ち国内に住所を有し、相続前15年以内に日本国内に住所を有していた期間が10年以下の場合には「一時居住被相続人」となり、海外に10年以上住む相続人は制限納税義務者となり海外財産を相続税の対象外とすることができるようになりました。
【3】海外在住日本人が日本の相続税を回避できるのか
相続税の税制改正によって、被相続人(贈与者)と相続人(受贈者)が資産を海外に移して海外移住することで相続人(受贈者)が制限納税義務者として海外の財産について日本の相続税(贈与税)を回避するのは益々難しくなっているようです。
一般に被相続人(贈与者)は高齢の方です。元気なうちであれば事業引退後に海外へ長期滞在することは可能ですが、それでも期間が5年以上だったのが10年以上ともなるとどうなのでしょうか?また相続人(受贈者)はその子供であり、多くは仕事をしている現役世代でしょう。
海外で事業を行うことは年々難しくはなくなってきています。そしてその両方が日本を10年以上継続して(被相続人については相続時に在留資格を持ち国内に住所を有し、相続前15年で国内に住所を有していた期間が10年以下の場合も含む)離れるということは現実的には簡単ではないと思います。
最近、海外財産に関する相談を受けることがよくありますが、
「海外財産については税務署も把握できなから大丈夫ですよね?」
「現地のコンサルタントは大丈夫と言っていました」など誤った認識を持たれている方も多いですが、現実問題、日本人であれば納税義務が発生するケースがほとんどのようです。
【4】まとめ
海外で生活をする人や海外に財産を所有する日本人は年々増えています。
完全に海外へ移住する人もいれば、日本に生活の拠点を残しながら半分は海外での生活・半分は日本での生活というスタイルをとっている人、二つの国に完全に居宅を構えて二重生活をしている人など、生活スタイルも多様化しており、それに伴い海外に関する相続、国際相続に関する問題も増えています。しかしながら、これまでのご説明で海外に居住することで、相続税を回避するということは中々ハードルが高いことをご理解いただけたのではないかと思います。そのことをご理解の上、相続対策を策定されるのがよろしいかと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました。