事業承継とは

①はじめに

 今後、10年の間に、70歳を超える中小企業・小規模事業の経営者は、約245万人(事業所の64%)となるにもかかわらず、約半数の127万人(日本企業全体の3分の1)が後継者未定である状況になるといわれています。このことはこれらの事業所の多くが倒産や廃業の道をたどるこということを意味し、それが10年の間に、約650万人の失業と約22兆円のGDPの喪失に繋がる可能性があるといわれています。2017年の労働力人口が約6,700万人であることを考えれば、毎年1%近い失業率のかさ上げになるといいことであり、大変大きな影響をもたらす数字であると思われます。このような状況で事業承継は国家の喫緊の課題となっています。

②事業承継の3つの側面

 それでは、個々の事業所において事業承継の課題を解決するために、何をどのように行えばいいのでしょうか。そのために事業承継の3つの側面を考えていきたいと思います。その一つが「ヒトの承継」であり、次に「経営資源の承継」、そして最後に「資産の承継」ということになると思います。「ヒトの承継」は後継者を誰にするのかということですが、事業承継は一般的には後継者候補がいなければ始まらないので、事業承継の最も重要事であることは言うまでもありません。もし、すでに後継者が決まっているという場合においても、その方がすぐに事業を承継できるわけではありません。先代経営者が創業者であれば、創業者はモノ作りから始まり、販路開拓、組織作り、資金調達まですべて自ら行ってきたスーパーマンのような方も多いかと思います。先代経営者が同じようなことを後継者に求めてもおのずと無理があります。まず、会社に入社させ5年10年とジョブローテーションを行いながら人材育成を行い、ある時期から経営へも参画をさせながら、社長の役割を果たせるようにしなければなりません。先代社長の時と違い組織も大きくなり、人材もいるでしょうから、後継者がすべてに精通する必要もなく、それぞれに通じた幹部を束ねてリーダーシップを発揮させることが重要だと思います。そうすれば、事業承継のもう一つの側面である「経営資源の承継」ということを適切に行うことにもつながります。経営資源とは、銀行や得意先、仕入れ先からみた信用力であり、また、その会社が持つ技術力や特許などですが、これらが会社資源であることをよく理解し確実に引き継がないと事業を承継しても会社の業績が落ち込んだり衰退したりするでしょう。そして、最後が私たち税理士も特に関わる部分であり、「資産の承継」といわれるものです。長年利益を積み上げたり都内に土地を保有している会社もあり、会社の株式評価は思いのほか高額になっています。また、先代社長の所有する土地や金銭が会社に貸付けられていたりということもあります。これらの資産を引き継ぐために、株式や不動産の承継を相続対策など、税務面に配慮して行うということが重要であります。

③事業承継に必要な時間

 事業承継といえば、「資産の承継」などの「物的承継」が注目されていますが、それ以上に「ヒトの承継」と「経営資源の承継」を行う「人的承継」とよばれるものがいかに重要であるかがお分かりいただけたと思います。「人的承継」には、最低でも5年かかるといわれていますが、「物的承継」には1~3年程度かかるといわれています。ということは「人的承継」は先代経営者の生前というのは当然ながら、できるだけ早いうちに(できれば60才前後に)後継者を決めて、後継者を育成し、そして先代経営者が元気なうちに代表権も後継者に引き継がせ、社長として十分活躍している姿を見届けるというのが必要であり、時としてそのことを完結するのに10年前後かかるのではないかと思います。一方「物的承継」につきましては、特例事業承継制度の新設によって、これまで一般的に行われていた、非上場株式の株価引下げ対策などを行うことなく、株式の承継をほぼ無税で行うことができるようになりました。これから5年間が特例事業承継制度を適用期間となりますが、この制度を利用する場合、特例事業承継計画の策定などが必要になりますが、その承継計画を策定して提出すれば、株式の贈与や相続につき納税の猶予制度が適用できることになりますので、従来1~3年の時間が必要であるといわれていた「資産の承継」にかかる時間は、実質的には短縮されることになると思われます。

④まとめ

 ここまで事業承継における3つの側面の各々の重要性をみてきましたが、我々事業承継に携わる税理士も、「資産の承継」という「物的承継」以上に重要な側面である「人的承継」にもスポットをあて、お客様の事業承継に係る総合的な状況を把握し、かつその状況ごとに適切なアドバイスを行い、計画の策定とその進捗が万全となった後に、株式の承継につき、株価対策や後継者への株式集約などの「物的承継」を行っていかなければならないと考えております。そういう意味では、事業承継の特例承継計画の策定が適用条件である特例事業承継制度の適用を積極的に検討していくことも重要であると思われます。