国際税務の基本ルール:居住地国・源泉地国・恒久的施設など主要概念をわかりやすく解説
海外に進出する企業や、国際的な活動を行う個人にとって「国際税務」は避けて通れない重要テーマです。今回は、国際課税の基本的な仕組みについて、税務上の重要キーワードをもとに解説いたします。
① 居住地国の原則(Residence-Based Taxation)
国際税務では、まず「居住地国」が重要な出発点となります。法人や個人がどこの国の「居住者」とみなされるかによって、課税される範囲(全世界所得課税か、限定課税か)が大きく異なります。
日本では、個人の場合「住所または1年以上居所を有するか」で居住者・非居住者を区別し、法人は「本店または主たる事務所の所在地」で内国法人か外国法人かを判断します。内国法人や居住者は、全世界所得に課税されるのが原則です。
② 所得の源泉地国の原則(Source-Based Taxation)
一方、所得が実際に生まれた場所、すなわち「源泉地国」でも課税が行われることがあります。たとえば、日本国内で不動産収入を得た非居住者や、国内企業から配当を受けた外国法人などがこれに該当します。
各国は、源泉所得に対して一定の税率で「源泉徴収課税(Withholding Tax)」を行うことが一般的です。
③ 恒久的施設(Permanent Establishment: PE)
OECDモデル租税条約などでも登場する「恒久的施設(PE)」の概念も重要です。これは外国法人などが源泉地国で一定の物理的拠点(支店、営業所、建設現場など)を持っている場合、その活動が本格的で継続的であると認められると、源泉地国でも事業所得に課税されることになります。
日本と他国の間でも締結されている租税条約の多くでは、PEがない限り事業所得には課税しないというルールが設けられています。
④ 源泉地国での課税率(Withholding Tax Rate)
源泉地国で課される税率は、通常その国の国内法で定められていますが、租税条約が存在する場合はその優遇税率が適用されるのが通例です。
たとえば、日本企業が米国法人に配当を支払う場合、日米租税条約により原則10%の軽減税率が適用されますが、条約がなければ日本国内法上の20.42%が課税されることもあります。
⑤ 源泉地国における納税方法
源泉地国での納税は、多くの場合「源泉徴収(Withholding)」という形で行われます。すなわち、支払者が税金を天引きして税務当局に納める方式です。
非居住者や外国法人はこの仕組みにより納税が完結する場合も多く、申告不要とされることもあります。ただし、PEがある場合などは確定申告が必要となるケースもあります。
⑥ 二重課税の排除方法(Elimination of Double Taxation)
同一所得に対して、居住地国と源泉地国の両方で課税される「二重課税」は国際税務上の大きな問題です。これを排除するために、各国は主に以下の二つの方法を採用しています:
- 外国税額控除方式(Foreign Tax Credit)
居住地国での課税時に、源泉地国で課された税額を一定範囲内で控除する方式。日本でもこの方式が一般的です。 - 免除方式(Exemption Method)
居住地国が源泉地国で得た特定の所得を課税対象から除外する方式。欧州諸国に多く見られます。
なお、これらの方式をより効果的に運用するためには、租税条約の内容や国内法との調整が不可欠となります。
おわりに:国際税務の複雑さと専門家の重要性
国際税務は、一見すると「どの国に税金を払えばいいか」という単純な話に見えますが、実際には租税条約、PEの判定、税率の適用要件など、きわめて専門的かつ複雑な制度が絡み合っています。
特に近年はBEPS(税源浸食と利益移転)対策やデジタル課税の動きも進み、グローバルに活動する法人・個人にとって、最新の国際課税ルールへの理解と対応が不可欠です。
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